ばなりません。家産の傾きを元へ戻さねばなりません。いやそれよりも信二郎だけでも安定した平和な生活をおくってほしいと思うのです。私はあの子の力にならなければ。母様は教育もなく、もう毎日のたべることだけで他のことは考える隙もないのです。父様も廃人。私は足をはやめました。門をはいると別棟の茶室の庭で、父の妹の未亡人が火をおこしておりました。もう何十年か前に主人をなくして、今は中学へ通っている一人の息子の春彦と二人、編物の内職とわずかな株の配当でくらしております。
「唯今、おばさま」
「おかえんなさい。そうそう郵便が来てましたよ、二三通だったかしら」
狭い船板で出来た縁側には、おいもがならべてあり、その横で野菜をきりかけたまま庖丁が放り出してあります。昔、その茶室で四季にかならず御茶会をしておりました。湯のたぎる音、振袖のお嬢さんや、しぶい結城などきた奥様の静かな足さばき。ぽんとならすおふくさ。今は、青くしっとりしていたたたみも、きいろくところどころやぶれておりました。
「雪ちゃん、おばさん今日から一日を五十円以下で済まそうと思ってるのよ。朝は番茶とパン、おひるは漬物と佃煮、夜は一日おきに蒲
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