って行った。おはるはもう結婚したことも、離縁になったことも何ともない様子だった。私はそれから一時間、きまって十時頃、御茶をいれることの習慣を忘れて、ぼんやり坐っていた。作衛がかわいそうだったとおもった。作衛は、本当におはるを愛しているのだと思った。その夜、私はとうとう決心して、作衛に故郷にかえれと云った。熊本の田舎、そこは私の先祖の地でもあった。作衛は黙ってかすかにうなずくと立ち上り、荷物などまとめはじめた。私はふと幼い頃、作衛の背に負われて、盆踊りをみに行った事を思い出した。作衛と別れることは悲しかった。辛らかった。御餞別を包んでやると、始めは辞退したが、やっとそのやせた胸におさめた。
「明朝、かえります。おくさま、ぼっちゃま、お達者でおくらし下さい。じいはひとりぼっちで死んでゆきます。故郷だって、誰もいやしません。死水をとってくれる人もおりません。勿論、おはるに会いません。でも奥さま、これだけ申します。おはるが離縁になったのはわしのせいじゃございません、わしはおはるの亭主に会っておりません、本当です、あれが離縁になったのはあれが不具《かたわ》だったからなんです。結婚したって子供もこ
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