一しょの屋根の下では反抗出来なかったのだといい、作衛は作衛でおはるが自分に甘えて来たんだといい、二人の云い分はどちらも矛盾しているようであり、きりがつかなかった。私はやっとのことで二人を黙らせ、おはるも悪かったけれど一旦もう嫁いだからには作衛が手をひくべきだ、とそれが私自身の真実の結論ではなくても、一番いい道だと思ってそう云った。とにかくおはるに肩をもって、私が作衛の今後を責任持つから、とりあえず帰れと云った。おはるが帰った後私はさんざん作衛を叱った。自分自身何を云っているのかわからぬくらいカッとしていた。作衛は、わめきながら泣いた。そしておはるを罵り、私をさえも不人情だと罵った。
それから一週間、それが今日である。図案の反古を焼いてしまうとあらためて掃除をし、灰を土の中に埋めた。とその時、木戸のあく音がして庭に入って来たのは、おはる。何となくしおれている様子。
「おまえどうしたの一体」
挨拶もなく私はいきなりきいた。おはるは涙を一ぱい溜めている。
「奥様、私離縁……」
「えっ、離縁……」
私は瞬間はっとたちすくんだ。あの時、私が責任持ちますと云ったのだ。
「奥様、作衛じいさんが来たんですわ、私の留守の間に来て主人に何かつげ口したのですわ、ええ、そうです」
私はあれから一週間、作衛の動向に、うんと注意していた。そして遠方へは行かさなかった筈である。歩いて行けるところの使いばかりで、作衛も私が見積った時間には、ちゃんと帰って来ていた。でもとにかく、私に責任があることだ。で、
「おまえ、どうする気なの……」
と問うた。おはるの母という人に対して済まないとその時、あの割に品のよい面影を思い浮べた。
「致し方ございません。私はこれからも先、どこぞへ女中にまいります。ですがまた、作衛じいさんが来るかも知れません。神戸ですと会うかも知れません。私は郷里へは、こんな姿では帰れません、ですから作衛じいさんに何処かへ行ってほしいのです。そうすれば私、又ここへ御厄介になってもよろしいです」
私は、おはるの勝手な云い分に、多少呆れたものの仕方なく承知した。で附け加えて、「うちへは来てもらわなくともよいから早くどこかへ務めなさい」とぶっきら棒に云った。作衛は行雄を連れて、裏山へ薪をひろいに行かせていた。帰らないうちにと、私はおはるをせきたてた。おはるは、ケロッとして、さっさと帰
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