、浅くこしかけていた私は、膝の上のぼろぼろのハンドバッグを、一度ならず二度程、ガシャンと落した。
 八月の最終日曜日。私は、彼と共に、VIKINGの例会に出席した。阪急にのって、高槻の御寺までゆく間、一言も喋らなかったようである。車中、彼は、さらの木綿の風呂敷を膝の上において、本をよんでいた。私は、えんじ色と紺色のその風呂敷が、先生に似つかわしくないものだ、と思っていた。
 広い、がらんとしたお寺の座敷で、私は、焼酎なるものをはじめて飲んだ。そして、久坂葉子と紹介された時、かつて経験したことのない、照れくささを感じたものだ。だから、私は煙草をやたらに吸った。大きな声でわめく連中を目の前にしながら、なる程、これが小説を書く人達かいな、と思った。それ迄、私は小説家など全く縁遠い存在であったのだ。当時、私は十八歳であった。会は終ったようでなかなか終らない。すると、いつの間にか、私の膝の上に、重みが加わった。これが富士正晴氏の小さな頭であったのだ。私は、恐怖で胸の中がガンガンした。が持前の気取根性で平気をよそおっていた。冗談の一言位云ったのかも知れない。二次会に、駅の近所でビールを飲んだ。私の
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