何でもよんだりみたりすることが出来たので、四歳の時から本に親しんだ。彼が、天才あつかいにされ、神童呼ばわりにされたのも、私の恩恵であったのに、私はそのため随分ひけ目を感じてしまうことも度々起ったのだ。
父を出むかえに、その頃、出張は必ずつばめの白線のある車で、日曜の朝着くことになっていたから、母と子供達は自動車で迎えに行った。私は、あの大きな人形と毎晩一しょに眠れるんだと、胸をときめかしながらプラットホームに待ちかまえていた。ところが、父は革鞄の他に何も持っていない。
「パパ、お人形は?」
私は、おかえりあそばせ、も云わない先にきいた。
「この中だよ、お家へかえってから」
私は屹度、手足がばらばらに取りはずし出来るようになっており、革鞄の中にきちんとはいっているのだろうと、踊る心を押えて家へ帰った。鞄をあけて、兄弟は中を一斉にのぞきこんだ。読書ぎらいの兄は、又本かと云うような顔付で包を受けとった。姉はきれいな英語の漫画の本であった。ところが私には、四角い箱がわたされた。それは、あのお人形の首だけしかはいっていない位の大きさであった。私はそれでも、わずかな希望でもって、その包みをほ
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