後に従って歩いた。ある国語の時間、一人ずつ五分聞演説をさせられた。私は喋ることを得手としていた。何でもいいから喋らなければならない。自分の幼い時に起った話、空襲の話、家の話、出席簿の順番に私があたり、私は自分のことは喋りたくないと云って何かペスタロッチと吉田松陰のことを喋ったようだった。とにかく、よみかきそろばん、という口調のよい言葉を大層嫌っていたので、その言葉をくそみそにやっつけたように思う。彼女は憎々しく私の意見に反対した。私はそれに反駁するだけの知識を持っていなかったので無表情のまま眼を引きつり上げて彼女の顔をみた。その日の放課後、彼女は私のその時の表情がかわいかったと私に告げた。私は少しばかりの憤りを感じたが黙っていた。彼女はしばしば私に手紙をよこすようになった。私は彼女に、気随に書いた詩や雑文をみせて批評を乞うた。彼女は私の詩を愛してくれた。けれど、彼女は私の数珠をきらった。
「ゆめをみるの、あなたの手が、血みどろになった手だけが、私を追いかけてくるの、その手に数珠がきらりと光る。私は毎夜、そんなゆめをみるの」
彼女は私に数珠などはずしてしまえと度々云った。私は離さなかっ
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