いらして来て、矢継早に質問を浴びせかけた。私は更に無言のまま、叱られているとさえ思われない状態でいた。私は、右手と左手とを前で握りしめた。数珠はなかった。私ははっとした。
「その姿勢は何だ」
 彼は私の両手をつかみ両脚の側面へ、まっすぐ伸ばさせた。私は直立したまま口を開こうとしなかった。いきなり頬に強い刺戟を感じた。私はよろよろとなり思わず膝をついた。
「たてれ」
 私はたたなかった。痛いという表情をして涙までこぼしてみせた。説諭することはかまわないが、生徒に手をふれてはいけないという学校の規則があった。彼は反則して私を撲ったのだった。彼はそれに気がついたらしく五分位した時、いやどうも、と口の中でもぞもぞいうなり扉をガシャンとしめて出て行った。私はすぐに部屋をとび出して家へかえった。
 父の喘息に転地をすすめる人がいて一週間程前から、姉達の島へ父は母と共に養生に出かけて留守であり、女中が一人、広い家を守っていた。兄と二人、うすぐらい電灯の下で沈黙のまま食事をした。私は、その翌日から登校する気になれず、二三日無届けで家にごろごろしていたが、学校から調べが来るという情報が生徒よりはいったの
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