かったから、私の最初の希望が、剃髪入門である。西行を愛していた私が、この時、更に深く彼に傾倒しはじめたのは云うまでもない。山家集を註釈づきでよみはじめた。もののあわれということが、はっきりつかめないままにも何かしら、悲しいのでもなく、落胆でもなく、しょげかえるものでもない。意味の深いものであるように、その輪郭をぼんやりながらつかみかけた。西行法師は私の心の中に随分根をおろした。そして私は真剣になって尼さんになろうと決心していた。
私は人と没交渉になってしまった。隣の彼女も私とはなれた。一度、彼女の家へ遊びに行った折、私のあげたハンカチーフが、しわくちゃになって屑箱にほうりこまれてあるのを発見した。私は瞬間、非常に悲しい気持になったけれど、決して彼女を恨みもせず、それが必然的なように思えて自然彼女から遠のいてしまった。私は学業にはげむ時よりも、仏教のことをかんがえている時間の方が更に長く、ひとりぼっちになっても平気でさみしがらなかった。
人からどんなに侮りをうけても嘲笑されても、一つのことを信じておれば心は常に平静であり動揺する気配さえ全くないことを私は自分に発見出来た。人は私を変り
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