紙をかいて、授業中渡し合ったり、先生が黒板の方をむかれる度に、御べんとうを口の中へ投げ入れたりした。それから、少しずつ恋愛小説をよみ出した。三階のよく日のあたる三方窓の教室の隅で、単行本や雑誌を交換し合った。
私はその秋に、一年上の男生徒に好意を持ちはじめた。彼は支那風の大きな邸宅に住む坊ちゃんで青白い顔をしていた。学芸会に独唱をしたり劇に出たりした。その声が、りんりんとしており講堂の隅で下稽古の時こっそりきいて夢中になってしまった。ラクダ色のセエータの下に真白い清潔なシャツをつけており腕時計をはめていた。小学生で腕時計をはめたりする人は極まれであった。私は、廊下で行き合ったりする時、ピカッと光るその時計が、彼を非常に偉いもののように仕立て上げるのを感じた。そのうち、彼の持物を掠奪してみたい気持になった。時計。それはあまり貴重品でそれに掠奪すればすぐにわかってしまう。で、私は筆箱にはいっているちびた鉛筆を盗《と》ろうと思った。何か、常に彼の持っているものを身につけていたいと思ったからなのだ。ある放課後、私は彼の学級の前へ一人で偵察に行った。六年生はいつも居残りをして、入試の勉強をして
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