、マネキンを抱いて眠りたい夢のつづきであったわけなのだ。英雄の命令通りに、大人しい女の子は短いスカートをとりはずした。私は、その白い乳くさい臭《にお》いのする肌をさわって、感傷的にさえなった。
私の母は、私が学校から帰っても家にいることは殆どなかった。母の会だとか、友の会だとか、そんな会にはいっていて、絶えず外の用事ばかりをしていた。弟が肺炎で、生死の間を彷徨している時でさえ、家に居なかったということを、大きくなって乳母から度々きかされたことがある。楽天的な性質らしく、それに、お針をしたり、台所で食事の用事をすることを好まないのか、ついぞそういう母の姿をみたことがなかった。
「お家へかえったら、お母様、唯今かえりました、と云うのです」
先生がそう云った時、私は大へん物悲しい表情をして、
「ママはおうちに居ないの」
と訴えたことがあった。しかし、その物悲しい表情というのは、あきらかにジェスチャーであり、母に対する思慕など、少しもなかった。かえって家に居ない方が、自由に遊ぶことが出来てよいのである。
母をますます愛さなくなった原因がその頃又一つ起った。二階の御納戸に、あけしめする
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