は、無言のまま歩きはじめました。北の方へむかって。何も云いませんでした。そして、大きな橋まで来ました。下は汽車の線路です。煙があがって来、とても寒い風がふいて居りました。彼は口をきりました。ひどいことを云って、本当にすまなかった、と。私はその言葉を、まるで期待していなかったのです、私は驚きました。そして途端。死ねなくなるのじゃないかと思いました。私達は又歩きはじめました。何分位歩いたでしょうか。鉄路のほとりは、急に云ったのです。僕と結婚してくれますか、と。それは私にとって、期待していたことだけれど、少しも、その言葉をきけるものとは思っていなかったのです。私はもう、何もかも捨てて、彼だけで生きることが出来ると思いました。私は喜びしかありませんでした。不安も苦悩も、そうです、小母様、私はその時、罪悪感も何もかも、家庭のことも、仕事のこともすっかりなかったのです。私達は、長い間歩きました。小母様、この日、私は本当に幸せだと思いました。私は、何の疑いも何の迷いもなく、彼の愛情をそのまま感じ信じたのです。私はうれしいと云いました。本当に嬉しいでした。私達は時間がたつことを暫く忘れて居りました。私
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