。それにスェーターを二三枚着て、ぼろぼろのトッパーをはおり、穴のあいた手袋をはめていました。ハンドバッグの中には、その日のため貯めておいた千円札と百円札。それに、千円の小為替。それから、真珠のネックレスと、ダイヤやルビーをちりばめた指輪。風呂敷づつみには、ペンと原稿用紙、というのは、その朝、急に書きたくなって十枚ばかりばりばり、芝居のものを書きかけたのです。いちばんはじめに書いた〈鋏と布と型〉の原稿です。それを途中で筆をおき、三時迄の余暇に、喫茶店で書きあげてしまおうと思っていたのです。さて、風呂敷の中は、青白き大佐から借りていた本二三冊、それは建築の本でした。彼が家をたてるというので、私は、そのデザインをまかされていたのです。いずれ、二人で住むかも知れない家だったかも知れません。それと封筒の中に、契約証と破約の短い文章。これは前にかきました。それ等がはいっておりました。私は、宝石屋へまず寄りました。最初の家で、両方とも三千五百円だと云われたのです。一万円は大丈夫だと思ってたのですから、がっかりしました。次の店で三千円。その次の店では、何と二千円。私は売る気がしなくなりました。品物に対
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