する愛着はまったくないのです。しかし、引換の金額はあまりにも少い。黒部迄ゆく旅費と、若し汽車の都合で、待ったりして、その滞在費がいるわけです。私は、神戸新聞に、原稿料をもらっていないことに気附きました。で、いつもゆくレコード屋へ行って、電話をかけ、とりにゆくことをあらかじめ通知しました。さて、そのレコード屋で、その主人に会った時、彼は、私の昔の恋人です。それは、小母様、知ってらしたわね。ミローの歌曲をかわないかとすすめられました。度々そこできいていて、私、買うと云っていたものです。私は、青白き大佐にあげてもよいと思いました。そして、がんじょうに一枚のレコードをつつんでもらい、三百円とわずか、はらいました。ところへ、面白い酒場の主人がふらりとやって来て、一しょにコーヒーをのみにゆくことにしたのです。十分間ばかり絵の話など致しました。偶然そんななつかしい人と出くわすのは、たのしい気持でした。彼と別れてから、市電にのり、新聞社へゆく迄に、小さいふるぼけた宝石屋へ寄りました。今度こそ手ばなしてしまえと思ったのです。私は四千円で、指輪をうるといいました。その店では、真珠は駄目だったのです。主人は
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