ましだわ――
――もう駄目、何もかも駄目。阿難は何も云えないわ――
蓬莱和子は、真珠をいじりながら、自分が想像していたような集りのふんいきにならなかったことに気付いて腹立たしかった。彼女は、夫建介と親密な関係を、南原杉子にみせるつもりだったのだ。ところが、蓬莱建介は、何かというと南原杉子をかばい、その上、仁科たか子までが。
「ねえ、六ちゃん。あなたはお杉がいつも仮面をかぶっているらしいことをどうも思わない?」
遂に、彼女は最期の一人に同意を得ようとした。
「僕、わかりませんよ。そんなこと。それより、うたでもうたってくださいよ」
仁科六郎は、蓬莱和子の得意とする歌をうたわすことが、この場合、最も座が白けないで済むと思ったのだ。案の定、彼女ははれやかにピアノの傍へちかづいた。仁科六郎は、無言でピアノをひけと阿難に命じた。
「私、伴奏しますわ」
「あら、お杉、ピアノひけるの」
「南原女史は何でも屋なんだね」
蓬莱和子は、楽譜をめくりながら、一番むずかしそうな伴奏のを選んだ。
「初見でおひきになれる?」
「ええ。エルケニッヒね」
南原杉子は苦笑した。そして、ピアノのキイに手をのせた
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