の世界はぐらつきはしないのだが、阿難の脳裡に、色の白い細おもての仁科たか子が明確に残るものに違いないのだと、南原杉子は考えた。
「お杉って人は、仲々自分のことを云わないのね。ねえあなた。今日は、お杉の告白の一部分をきいたわけだけど、もっと何かありそうよ。お杉の性格は疑いぶかいのね。私なんか信用されてないみたいね」
 蓬莱和子は、夫建介と南原杉子を交互にみる。
「じゃあ、何でもべらべら喋ったら、それが信用している証拠になりますの」
 南原杉子は、にこやかに云う。
「まあまあ何でもいいさ」と蓬莱建介。
「いいことないわよ。私は、お杉がすきだから、お杉のために一肌ぬごうっていう気なんですもの」
「僕のために一肌ぬいでくれたらどうだい」
 蓬莱建介は、冗談まじりに蓬莱和子の肩をたたく。
「南原さん、御かわいそうよ。昔のこと思い出されて」
 その時、南原杉子に同情の言葉をよせたのは、仁科たか子である。南原杉子は黙ってうなずかねばならなかった。
 ――何ということだろう。仁科たか子に同情されたのだ。阿難がここで、仁科六郎を愛してますと云って、仁科たか子から嘲笑か、にくしみなうけた方が同情されるより
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