なんか馬鹿らしくって出来ないと思ってるのよ」
 蓬莱和子は、まともに南原杉子を凝視しながら云った。
「いいえ、そうじゃありませんの、たか子さん、わけがあるのよ」
 仁科六郎は頬を硬ばらせた。
「南原女史だって、結婚したいと思っているさ、だが彼女はまだ気にいった人がないと云うわけさ」
 蓬莱建介は、ねえ、そうだね、という表情で南原杉子をみた。蓬莱和子は、又真珠の玉をにぎった。
「あなたは、いちいち私の云うことに反対なさるようね」
 蓬莱和子は、少し冷淡に、夫建介をみた。
「あら、私、あなたの解釈とも、御主人の解釈ともちがったことで結婚しないのですわ、老嬢秘話をあかしましょうか」
 仁科六郎はうつむいた。
「私、勿論、結婚してらっしゃる方をみて、羨しい限りなんですよ。でも、結婚しませんと誓ったことがあるんです。昔のことですけど、純情少女の頃、純情な少女がある男の死に捧げた誓いなんですよ」
 ――その少女は阿難なのだ。その男は、仁科六郎なのだ。そして、それは過去ではない。現在なのだ――
「おどろいたわね、お杉は子供なのね」
「そうよ、みえない世界で結婚していて、ひめやかに貞操を守りつづけてい
前へ 次へ
全94ページ中86ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久坂 葉子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング