ら、仕事駄目なのよ。……いいお店。おたのしみね」
「あらいやだ。ちっとももうかりませんのよ。あなた東京の方ね。私、谷山さんの弟子ですのよ。あ、先達は、見えてたでしょう。ああして、月に一回レッスンに来て頂いてますの。関西の御弟子さんはみんなここへいらっしゃるのですよ。御店だか稽古場だかわかりませんわ」
南原杉子は、長々喋ってくれる相手が好きだ。その間に他のことを考えていてもいいし、十分に相手を観察することも出来るのだから。
――一体、この人どんな生活しているのだろう。あれまあ、又谷山をほめている。東京では弟子がないもんだから、ひょこひょこ関西落ちしてるのに、おや、首のあたりに、かげりがある。随分の年かな――
「あなた、音楽なさいませんの」
「好きだけど、無芸なのよ」
「あなた、失礼だけど、お幾つ」
「年などはずかしくって申せませんわ(実際のところ、私はいくつになるのかしら)」
「あら、ごめんなさい。お若くみえますわ、で、おひとり」
「ええ」
「御家族は」
「東京」
「まあ、じゃたったおひとりなんですの」
「さあ」
南原杉子は遂に笑いだしてしまった。蓬莱和子の質問がちっとも面白くない
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