営業関係の人に会いにゆく。その時、蓬莱和子の機嫌のいい、そして流暢な喋り声を思い出したのだ。と、急に、南原杉子は彼女に会いたくなった。ものずきからである。会社の用事をすませ、狭い廊下を小走りに受付へ来ると、仁科六郎ほまだいた。
「そばでも食べに行きませんか」
南原杉子は、そばと仁科と、そして蓬莱和子をならべたてて考えた。
「ちょっと用事があるのよ。今度ね」
エレベーターの扉がしまった。仁科六郎は冷い顔をしていた。彼女は、蓬莱和子と仁科六郎の関係を考えた。
カレワラにはいると、奥でピアノの音がしていて、マダムがリードを練習していた。お客にきかせるならジャズでもうたえばいいのに、南原杉子はそう思った後で苦笑した。一人も御客はいなかったのだ。カウンターの上の水仙は枯れかかっている。女の子が珈琲をいれながら、ママさんを呼びましょうかと云った。南原杉子はにっこりうなずいた。
「まあ、いらっしゃい。おまちしてましたのよ」
「先日は失礼、いそがしくって……」
「そうですってね。六ちゃんが云ってました。一人で何でもやってらっしゃるんですってね」
「(六ちゃん。よほど親しい人とみえる)ぼんやりだか
前へ
次へ
全94ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久坂 葉子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング