からだ。ところが、蓬莱和子の方は、こいつは男がいるんだなと思ったのだ。
「いいわね、おたのしみでしょう」
南原杉子はますます苦笑した。
「東京はよろしいですわね。で女子大でも」
「いいえ、とんでもない」
「あら、……。私、戦前はよく東京へまいりましたのよ。日比谷、なつかしいですわ。あのさ、御菓子召しあがって、私、とてもあなたが好きになりましたわ。御ぐしの恰好、チャーミングですわね」
南原杉子の方からは、何一言きくすきまがない。だが、きこうともしないでも、蓬莱和子は心に秘密しておくことが出来ない性質《たち》の人だと、彼女は察していた。案の定、
「お菓子おきらい? ビールお飲みにならない」
「のみましょう」
で、二人はぐっとのみ、その後、蓬莱和子はますます喋りだした。二十年前に、自分は関西の学習院と云われている阪神間の学校を卒業し、すぐに結婚、今は、戦災にあった邸跡に、二軒家をたてて兄夫婦の家族と別棟に、住んでいる。里の両親は、戦後、相ついで死んだのだが、関西では有名な金持で、宮中の侍従武官某氏や、元外務大臣某氏と親類である。ピアノは二台とも土蔵にあって焼けのこり、その一台をここへ運
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