感じたので、云わずに終えた。つまり、その世界が、肉体をはなれて存在するのか、という疑問である。今、お互に、肉体的な交渉を断った場合、その世界はぐらつかないものか? それは疑問である。

 下宿の二階で、南原杉子は夜を徹した。
 ――阿難の愛は、南原杉子の肉体を介さないでも存在します。でも、そんなこと、申出るのは嫌です。あまりにも阿難はみじめよ――
 ――仁科六郎の返答をききたいのだから――
 ――よして下さい。その返答がどちらであっても阿難はあわれです――
 阿難は懇願する。
 ――蓬莱建介との関係を断って下さい。彼との関係で得たことは、大きいでした。つまり、阿難と、仁科六郎の世界は絶対のものだったのです。確証を得たのです。それがわかったのだから、もう蓬莱建介の必要はないわけでしょう――
 ――阿難、だけど、蓬莱建介に興味をもったのは、蓬莱和子の存在があったからなのよ。彼女の真実、彼女の妖気。彼女の自信の根源、すべてまだわかっちゃいないのよ。勿論、そんなことよりも、[#「よりも、」は底本では「より、も」]阿難と仁科六郎との愛情の確証を得たことの方が大きな発見だったことは間違いないけれど
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