――
――阿難がかわいそうです。阿難が抹殺されてなければならない時間があるということは、しかも、仕事の時でない。享楽の時なのよ――
南原杉子は、阿難の申出を拒絶することが出来なくなった。南原杉子は、がく然とした。阿難が、彼女のすべてになってしまったのである。そして、阿難のすべては仁科六郎なのだ。蓬莱夫妻は存在しないのだ。
その夜、同じ夜、蓬莱建介夫妻は語り合っていた。
「お杉とあなたは何でもないのね。さあ、真珠を買って頂かなくちゃ。だけどもう一週間あるわ、一カ月の期限にね、そうだ、お杉が一度一しょにのもうと云ってたのよ。三人で。来週の土曜日、大宴会しましょう。カレワラをかしきってね、七時頃から、そうそ、六ちゃん夫婦も呼びましょうよ」
蓬莱和子ははしゃいでいた。彼女は、やはり蓬莱建介の妻であったのだ。蓬莱建介は、妻を欺いている形になってしまった。
――今更、浮気しましたとは云えない。真珠を買ってやらなければ。だが安いことだ。彼女はもう僕だけのものになりそうだ。案外いい奥さん。さて、しかし、土曜日は、おそろしいことになりはしないかな――
「ねえ、あなた、背広買ったげますわね、浮
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