れど魅かれる。いつかはあきるだろう。唯、それだけであった。
 蓬莱和子は、三人が人間らしい喜びに浸っている日常を、唯一人、いらだたしくおくっていた。夫、お杉、六ちゃん。すべて、彼女から遠ざかっていたからである。

 ある日、蓬莱和子は、放送会社へ出むいた。仁科六郎を呼び出したのだ。
「どうして来なくなったの」
「病気で寐てたのさ。それにとてもいそがしいんだ」
「お杉も来ないわよ。お杉はどうして来ないの」
「僕にきいたってわかることじゃない」
「お杉と会っているのでしょう」
「うん」
 彼女は、間の抜けた質問をしたものだと思った。そして、はっきりと邪魔者にされた自分を感じて、おそろしく激怒しはじめた。
「私ね、何にもあなたとお杉のことを、とやかく云うつもりはないんですよ、私は、お杉が好きなんですからね。お杉に来てほしいのですよ。お杉に会いたいのですよ」
「だったら、彼女に云いたまえ」
「ええ、云いますとも」
 蓬莱和子は、ハンドバッグをあけ、伝票と共に、カウンターにお札をつきつけると、仁科六郎に挨拶もしないで喫茶店を出た。彼女は、自分が興奮している原因をかんがえてみるひまもなかった。そし
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