。
「まあ、けんさん、ひどいおみかぎり」
隅のソファへ彼はどっかりこしかけた。南原杉子もその隣にすわる。
「この女史、ジャズシンガーだよ」
南原杉子は、マッチの火をちかづけてくれるその娘ににっこり笑った。
「おビールだっか」
娘がスタンドの方へゆく。御客は一組。スタンドの中で、マダムは愛想わらいをふりまいている。
「ひろちゃん、どうだ」
「いいわね。大阪に珍しいわ、だらだらぐにゃにゃした女性ばかりですものね」
「いいだろう」
「もう少し観察してから、アダナつけるわ」
ひろちゃんを相手に、二人はのんだり喋ったりした。大した話ではない。けれど、二人の親密度をました。
「あなたはスポットガールの何に魅かれるわけなの?」
腕をくんで、少しさびた通りを歩いている時、南原杉子は蓬莱建介に問うた。スポットガールとは、彼女が先刻、ひろちゃんにささげた愛称である。たった一つの点。決して線がそれにつながってないという意味。蓬莱建介は、何のことだかわからないが、彼女のつけたアダナの音《オン》がよいと云った。
「魅力ね、魅力の根源はね」
「つまり、スポットだからでしょう。彼女は誰からも触れられてない
前へ
次へ
全94ページ中50ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久坂 葉子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング