ってゆく。
「ねえ、奥様と三人でのみにゆきませんか」
南原杉子の言葉が終りきらぬうちに、
「私、今日、約束があるのよ、お杉、彼に附合ってやって下さいな」
蓬莱和子は、今日はおひとり? と建介に問うた南原杉子の言葉に、内心こだわっていた。
電車通りを横ぎったところで自動車をひろった蓬莱建介と南原杉子。
「おんなって実際わからんね」
彼女は、声高に笑った。
「だって、待合せのこと奥様におっしゃらなかったでしょう」
「何故わかる」
「あなたの奥様は、御存じのことすべておっしゃる性格の方ですもの、私に待合せのこと、おっしゃらなかったわ」
「じゃあ、偶然の出会いになってるわけだね」
「そうよ」
南原杉子の右手が、ふと蓬莱建介の膝にふれた。彼女はそれをわざと意識的な行為にするため、強く又彼の膝に手の重みをかけた。
「どこへ連れてって下さるわけ」
「僕のね、かわいい女をみてほしいんだ」
「それは興味」
自動車は繁華街の手前でとまった。二人は横丁のバーへはいった。
「ひろちゃん、居るかい」
中からばたばたと草履をならして出てきたのほ、色白のあごの線の美しい娘。小紋の御召しが似合っている
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