」
「成程ね、僕も彼女にふれがたいんだ。いい女さ」
突然、南原杉子はたちどまった。
「ねえ、あなたが好きになったわ、かまわないこと、私、好きになったら、もうれつ好きなのよ」
南原杉子は、自分が心にもないことを口にしていることに、一種のよろこびを感じた。
「君は、スポットじゃないね」
「勿論よ。そしてあなたのスポッツでもないわ」
――如何して私から誘惑などしたのかしら。金をうるための娼婦。肉体的な享楽だけの芦屋婦人、彼女等は割切っているのに。けれど私は、金のためでも、肉慾のためでも、勿論、恋でもない。別の意味……。たしかに意味はある筈。だが、その意味は何の心の動きだかわかっちゃいないわ。蓬莱建介は、私を愛しちゃいない。単に肉慾の対象にしているのだわ――
――阿難がみじめだわ。仁科六郎を愛している阿難がみじめだわ――
――衝動的なものだろうか、いいえ、下宿を出る時、今夜は用事で帰れませんと云ったんだわ――
――阿難があんなにとめたのに、南原杉子はひどいわ――
――いいえ、阿難が南原杉子をこんな結果にさせたのよ。仁科六郎を愛する故に、かえって、蓬莱建介とのつながりを強いたのよ
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