で私の仕事、かたづけます。カレワラで」
 仁科六郎はふっと戸惑ったが結構ですと答えた。南原杉子が、カレワラを指定したのは、蓬莱和子が居たら誘うという了簡ではなかった。彼女は今日不在なのだ。昨日、店の女の子と二三こと立話しているのをきいたのだ。五時から神戸に用があると云っていたのだ。
 南原杉子はダンスのレッスン場へいそいだ。髪毛をばらして、派手にルージュを塗り、五時五分前まで踊りつづけ、髪毛をまとめてカレワラへ来た。仁科六郎は川を眺めていた。仁科六郎の案内で酒場へ行った。酒場の女は、南原杉子を珍しげにみた。そして、言葉を珍しげにきいた。ビールとウィスキーをのんだ。
「女史は独身ですか」
「(みんな同じことに興味があるのね)私、などに誰も申込んでくれませんわ」
「結婚しようと思わないでしょう」
「ええ、まあそうね。私自信がないの」
「おおありの人じゃないですか」
「ちょっとまってよ。自信って、女房の自信がないわけよ」
「何故」
「男の人を安心させることが出来ないようですわ。主婦の務めは寛容でなきゃね。それなのに私はおそろしく我儘ですもの。結婚したら主婦の私は夫にほっとさせる義務があるのに
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