識にかんだ。抱かれているのは南原杉子である。
「ねえ、どうして此処へはいったのでしょう」
「わからない」
「あなたらしくないこたえね」
「もののはずみなんだ」
「ますますあなたらしくないわ。(先手をうたれたようだ)もののはずみって度々生じるんでしょう。しかも特定の対象に限らないのだ」
「じゃあ君はどうなんだ」
「阿難と云ってよ。私はもののはずみじゃない(本当はもののはずみかしら)」
「計画していたこと?」
「いやね。まるで、私が誘惑したみたい。唯ね、何かの働きがあって、斯うなったのよ」
「おかしな哲学だ。ロジックがないよ」
「もののはずみこそ、およそ非論理的よ」
二人は笑った。そして強く抱擁しあった。南原杉子は、強く押しつけられている仁科六郎の唇の感触を、首筋に感じながら、蓬莱和子の存在が、仁科六郎と自分を接近させたことをあらためて考えなおした。蓬莱和子あっての仁科六郎なのだ。
「カレワラのマダムとはあるのでしょう」
「何故」
「だってお互に好きなのでしょう」
彼女は洋服のスナップをとめながら、仁科六郎にきいてみた。返事はなかった。きいていない風をよそおっているのだと、南原杉子は直
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