虫は壁の上にとまっていた。よくみると体の小さな赤黒い色の虫で、それは初めの虫ではなかった。成はその虫があまり小さいのでつまらないと思って、初めの虫を見つけようとあちこちと見まわした。壁にとまっていた小さな虫は、この時不意に飛んで成の肩に止まった。それを見ると促織の上等のものとせられている土狗《どこう》か梅花翅《ばいかし》のようであった。それは首の角ばった長い脛《すね》をした虫で、どうもいい虫のようであるから喜んで捉えて、まさに邑宰の許へさしだそうとしたが、つまらない虫で気に入られなかったなら大変だと思ったので、まずためしに闘わしてみてからにしようと思った。その時|好事者《ものずき》の村の少年が一疋の促織を飼って、自分で蟹殻青《かいかくせい》という名をつけ、毎日他の少年達と虫あわせをしていたが、その右に出るものがなかった。そこでその少年は利益を得ようと思って、その値《ね》を高くしたが買う者がなかった。少年は成が虫を捕ったということを聞いて、その虫も負かすつもりで、成の家へいって、成の蓄《か》っている虫を見た。それは形が小さくてつまらない虫であるからおかしくて噴《ふ》きだそうとしたが、やっ
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