と口に手をやってこらえ、そこで自分の虫を出して見せた。それは大きな長い虫であったから、成は慚《は》じてどうしても闘わさなかった。少年は強いて闘わそうとした。成はそのうちにつまらない物を飼っていても、なんにもならないから闘わしてみよう。つまらない虫なら負けるからすてるまでだ。笑われると思ってやってみようという気になった。
 そこで双方の虫を盆の中へ入れた。成の小さな虫は体を伏せたなりに動かなかった。それはちょうど木で造った鶏のようであった。少年はまたひどく笑った。そこで試みに猪《ぶた》の毛で虫の鬚《ひげ》をつッついたが、それでも動かなかったので少年はまた笑った。そこでまた幾回も幾回もつッついた。すると虫は怒りたって、いきなり進んでいった。双方の虫は闘いをはじめて、声を出しながら争った。不意に小さな虫の方が飛びあがって尾を張り鬚を伸ばして、いきなり相手の領《くび》にくいついた。少年はひどく駭《おどろ》いて、急いでひきわけて闘いをよさした。小さな虫は翅《はね》を張って勝ちほこったように鳴いた。それはちょうど主人に知らしているようであった。
 成は大喜びで、少年と二人で見ていると、一羽の鶏が不
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