。日がもう暮れようとした。夫婦は子供の尸を取りあげ、粗末な葬式をすることにして、近くへいって撫《な》でてみるとかすかな息が聞えた。二人は喜んで榻《ねだい》の上へあげた。
夜半ごろになって子供はいきかえった。夫婦の心はやや慰められたが、ただ子供はぼんやりしていて、かすかな息をして睡《ねむ》ろう睡ろうとするふうをした。成はその時気がついて虫の篭を見た。篭の中には何もいなかった。そこで成は息がつまりそうになった。成はもう子供のことを考えなかった。
成は終夜まんじりともしなかった。そのうちに朝陽が出て来た。ぐったりとなって心配している成の耳に、その時不意に門の外で鳴く促織《こおろぎ》の声が聞えて来た。成はびっくりして起きて見にいった。虫はまだ鳴いていた。成は喜んで手を持っていった。虫は一声鳴いてから飛んだ。その飛びかたがすばしこかった。成はそこで掌でひょいとふせたが、中に何もいないようであるから、ちょっと手をすかしてみると、虫はまたぴょんと飛んでぴょんぴょんと逃げていった。成はあわてて追っていった。虫は牆《へい》の隅へまでいってそれから解らなくなった。成はそのあたりを歩きまわってたずねた。
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