っているので、不思議な宝を得たように大喜びをした。そこで夫人は元豊から取りあげてあった榻《ねだい》を故《もと》の処へ還《かえ》して、更めて寝床をしつらえて注意していた。元豊は自分の室へ入ると婢を出した。朝早くいって覘《のぞ》いてみると榻を空にして小翠の室にいっていた。それから元豊の病気は二度と起らなかった。元豊と小翠は夫婦の間がいたって和合して、影の形に随うがようであった。
一年あまりして王は給諌の党から弾劾《だんがい》せられて免官になった。王の家に一つの玉瓶《ぎょくへい》があった。広西|中丞《ちゅうじょう》が小さな過失があって譴責《けんせき》を受けた時に賄賂《わいろ》として贈って来たものであった。それは千金の価があった。王はそれを出して当路《とうろ》の者に賄賂に贈ろうとしていた。小翠はそれが好きで平生|玩《いじ》っていたが、ある日それを取り堕《おと》して砕いてしまった。小翠は自分の過《あやまち》を慙《は》じて王夫妻の前へいってあやまった。王はちょうど免官になって不平な際であったから怒って口を尖《とが》らして罵《ののし》った。小翠も怒って元豊の所へいっていった。
「私があなたの家を援《すく》ったことは、一つの瓶《かめ》位ではありません。なぜすこしは私の顔もたててくれないのです。私は、今、あなたに真《ほんとう》のことをいいます。私は人ではありません。私の母が雷霆《らいてい》の劫《ごう》に遭って、あなたのお父様の御恩を受けましたし、また私とあなたは、五年の夙分《しゅくぶん》がありましたから、母が私をよこして、御恩返しをしたのです。もう私達の宿願は達しました。私がこれまで罵られ、はずかしめられてもいかなかったのは、五年の愛がまだ盈《み》たなかったからですが、こうなってはもうすこしもいることはできません。」
小翠は威張って出ていった。元豊は驚いて追っかけたがもうどこへいったか見えなかった。王は茫然《ぼうぜん》とした。そして後悔したがおっつかなかった。元豊は室へ入って、小翠の化粧の道具を見て、またしても小翠にいかれたのが悲しくなって、泣き叫んで死のうとまで思った。彼は寝ても睡られず食事をしても味がなかった。彼は日に日に痩せていった。王はひどく心配して、急に後妻を迎えてその悲しみを忘れさせようとしたが、元豊はどうしても忘れなかった。そこで上手な画工《えかき》に小翠の像を画か
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