こそはしなければならないと感じた。それにわたしは、どれほどかれを愛《あい》しているかを語りたい燃《も》えるような希望《きぼう》を、いや少なくとも、なにかかれのためにしてやりたい希望を持っていた。
「あなたはご病気なんでしょう」かれがまた立ち止まったとき、わたしは言った。
「どうもそうではないかと思うよ。とにかくわたしはひじょうにつかれている。この寒さがわたしの年を取ったからだにはひどくこたえる。わたしはいいねどこと炉《ろ》の前で夕飯《ゆうはん》を食べたい。だがそれはゆめだ。さあ、前へ進め、子どもたち」
前へ進め。わたしたちは町を後にした。わたしたちは郊外《こうがい》へ出ていた。もう往来《おうらい》の人も巡査《じゅんさ》も街燈《がいとう》も見えない。ただ窓明《まどあ》かりがそこここにちらちらして、頭の上には黒ずんだ青空に二、三点星が光っているだけであった。いよいよはげしくあらくふきまくる風が着物をからだに巻《ま》きつけた。幸いと向かい風ではなかったが、でもわたしの上着のそでは肩《かた》の所までぼろばろに破《やぶ》れていたから、そのすきから風はえんりょなくふきこんで、骨《ほね》まで通るよ
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