うな寒気が身にこたえた。
暗かったし、往来《おうらい》はしじゅうたがいちがいに入り組んでいたが、親方は案内《あんない》を知っている人のようにずんずん歩いた。それでわたしも迷《まよ》うことはないとしっかり信《しん》じて、ついて行った。するととつぜんかれは立ち止まった。
「おまえ、森が見えるかい」とかれはたずねた。
「そんなものは見えません」
「大きな黒いかたまりは見えないかい」
わたしは返事をするまえに四方を見回した。木も家も見えなかった。どこもかしこもがらんと打ち開いていた。風のうなるほかになんの物音も聞こえなかった。
「わたしがおまえだけに目が見えるといいのだがなあ。ほら、あちらを見てくれ」かれは右の手を前へさし延《の》べた。わたしはそっけなくなにも見えないとは言いかねて、返事をしなかったので、かれはまたよぼよぼ歩き出した。
二、三分だまったまま過《す》ぎた。そのときかれはもう一度立ち止まっては、また森が見えないかとたずねた。ばくぜんとした恐怖《きょうふ》に声をふるわせながら、わたしはなにも見えないと答えた。
「おまえこわいものだから目が落ち着かないのだ。もう一度よくご覧《らん
前へ
次へ
全326ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング