つけようとした。ああ、ほんとにそれほど腹《はら》を減《へ》らしているのだ。けれどはきだめは雪が固《かた》くこおりついていて、探《さが》しても、むだであった。耳をだらりと下げたままかれはとぼとぼとわたしたちに追い着いて来た。
 大通りをぬけて、たくさんの小路《こうじ》小路を出ると、またたくさんの大通りがあった。わたしたちは歩いて歩いて歩き続《つづ》けた。たまたま会う往来《おうらい》の人がびっくりしてわたしたちをじろじろ見た。それはわたしたちの身なりのためであったか、わたしたちがとぼとぼ歩いて行くつかれきった様子が、かれらの注意をひいたのであろうか。行き会う巡査《じゅんさ》もふり向いてわたしたちを見送った。
 ひと言も口をきかずに親方は歩いた。かれの背中《せなか》はほとんど二重《ふたえ》に曲がっていたが、寒いわりにかれの手はわたしの手の中でかっかとしていた。かれはふるえていたように思われた。ときどきかれが立ち止まって、しばらくわたしの肩《かた》によりかかるようにするときには、かれのからだ全体がふるえて、いまにもくずれるように感じた。いつもならわたしはかれに問いかけることはしなかったが、今夜
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