オリンで、なにかひいてごらんと言った。マチアは一曲ひいた。
「いやあ、それでもきみは、音楽の調子がわからないと言うのかい」と床屋《とこや》さんは手をたたきながら言った。そしてむかしから知り合って愛《あい》している子どもに対するようになつかしそうな目で、マチアを見た。
「これはふしぎだ」
 マチアは楽器《がっき》の中からクラリネットを選《えら》んで、それをふいた。それからコルネをふいた。
「いやあ、この子は神童《しんどう》だ」とエピナッソー氏《し》はおどり上がって喜《よろこ》んだ。「おまえさん、わたしの所にいれば、大音楽家にしてあげるよ。朝はお客の顔をそるけいこをする。あとは一日音楽をやることにする。わたしが床屋《とこや》だから、音楽がわからないと思ってはいけない。だれだって毎日のくらしは立てなければならない」
 わたしはマチアの顔を見た。なんとかれは答えるであろう。わたしは友だちをなくさなければならないか。わたしの仲間《なかま》を、わたしの兄弟を失《うしな》わなければならないか。
「マチア、よくきみのためを考えたまえよ」とわたしは言ったが、声はふるえていた。
「なに、友だちを捨《す》て
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