った顔をしないで見ておいで」という様子をした。
そのお客がすんでしまうと、エピナッソー氏《し》は、タオルをうでにかけて、マチアの髪《かみ》をかる用意をした。
「ねえ、あなた」と、床屋《とこや》さんがかれの首に布《ぬの》を巻《ま》きつけるあいだにマチアが言った。「音楽のことで友だちとぼくにわからないことがあるんです。なんでもあなたは名高い音楽家だと聞いていましたから、二人の争論《そうろん》をあなたにうかがったら、なんとか判断《はんだん》していただけるかと思うのです」
「なんですね、それは」
そこでわたしはマチアの考えていることがわかった。まず先に、かれはわたしたちの質問《しつもん》にこの床屋《とこや》さんの音楽家が答えることができるか試《ため》そうとした。いよいよできるようだったら、かれは散髪《さんぱつ》の代で、音楽の講義《こうぎ》を聞くつもりであった。
マチアは髪《かみ》をかってもらっているあいだ、いろいろ質問を発した。床屋さんの音楽家はひどくおもしろがって、かれに向けられるいちいちの質問を、ずんずんゆかいそうに答えた。
わたしたちが出かけようとしたとき、かれはマチアに、ヴァイ
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