られていた。右のほうにははけ[#「はけ」に傍点]だの、くし[#「くし」に傍点]だの、クリームのつぼだの、理髪用《りはつよう》のいすだのが置《お》いてあった。左のほうのかべやたなにはヴァイオリンだの、コルネだの、トロンボンだの、いろいろの楽器《がっき》がかけてあった。
「エピナッソーさんはこちらですか」とマチアがたずねた。
小鳥のように、ちょこちょこした、気の利《き》いた小男が、一人の男の顔をそっていたが、「わたしがエピナッソーだよ」と答えた。
わたしはマチアに目配せをして、床屋《とこや》さんの音楽家なんか、こちらの求《もと》めている人ではない。こんな人に相談《そうだん》をしても、せっかくの金がむだになるだけだという意味を飲みこませようとしたが、かれは知らん顔をして、もったいぶった様子で一つのいすにこしをかけた。
「そのかたがそれたら、ぼくの髪《かみ》をかってもらえますか」とかれはたずねた。
「ああ、よろしいとも。なんなら、顔もそってあげましょう」
「ありがとう」とマチアが答えた。わたしはかれのあつかましいのに、どぎもをぬかれた。かれは目のおくからわたしをのぞいて、「そんな困《こま》
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