質問《しつもん》を出したので、ずいぶんびっくりしたと言った。わたしたちはエピナッソー氏《し》を知っているべきはずであった。
「ぼくたちは遠方から来たのです」とわたしは言った。
「ではずいぶん遠方から来たんですね、きっと」
「イタリアから」とマチアが答えた。
 そう聞くと、かの女はもうおどろかなかった。なるはどそんな遠方から来たのでは、エピナッソー先生のことを聞かなかったかもしれないと言った。
「その先生はたいへんおいそがしいんですか」とわたしはたずねた。そういう名高い音楽家では、わたしたちのようなちっぽけなこぞう二人に、たった一度のけいこなどめんどうくさがってしてくれまいと気づかった。
「ええ、ええ、おいそがしいですとも。おいそがしくなくってどうしましょう」
「あしたの朝、先生が会ってくださるでしょうか」
「それはお金さえ持って行けば、だれにでもお会いになりますよ……むろん」
 わたしたちはもちろん、それはわかっていた。
 その晩《ばん》ねに行くまえ、わたしたちはあしたこの有名な先生にたずねようと思っている質問《しつもん》の箇条《かじょう》を相談《そうだん》した。マチアは求《もと》めて
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