の先生から教えてもらわなかった」
「でもぼくはその先生に、きみの金からお礼を出さなければならなかったから」
わたしはマチアが、そんなふうに「ほんとうの先生」などと言うのがしゃくにさわっていた。けれどわたしのばかな虚栄心《きょえいしん》はかれのいまのことばを聞くと、すうとけむりのように消えて行かなければならなかった。
「きみは人がいいなあ」とわたしは言った。「ぼくの金はきみの金だ。やはりきみがもうけてくれたのだ。きみのほうがたいていぼくよりもよけいもうけている。きみは好《す》きなだけけいこを受けるがいい。ぼくもいっしょに習うから」
さてその先生は、われわれの要求《ようきゅう》する「ほんとうの先生」は、いなかにはいなかった。それは大きな町にだけいるようなりっぱな芸術家《げいじゅつか》であった。地図を開けてみて、このつぎの大きな町は、マンデであることがわかった。
わたしたちがマンデに着いたのは、もう夜であった。つかれきっていたので、その晩《ばん》はけいこには行かれないと決めた。わたしたちは宿屋《やどや》のおかみさんに、この町にいい音楽の先生はいないかと聞いた。かの女はわたしたちがこんな
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