は成功《せいこう》ではなかった。たびたびわたしはおこって、ばたんと本を閉《と》じながら、かれに、「おまえはばかだ」と言った。
「それはほんとうだよ」とかれはにこにこしながら言った。「ぼくの頭はぶつとやわらかいそうだ。ガロフォリがそれを見つけたよ」
こう言われると、どうおこっていられよう。わたしは笑《わら》いだしてまた課業《かぎょう》を続《つづ》けた。けれどもほかのことはとにかく、音楽となると、初《はじ》めからかれはびっくりするような進歩をした。おしまいにはもうわたしの手におえないことを白状《はくじょう》しなければならなくなったほど、かれはむずかしい質問《しつもん》を出して、わたしを当惑《とうわく》させた。でもこの白状はわたしをひどくしょげさした。わたしはひじょうに高慢《こうまん》な先生であった。だから生徒《せいと》の質問に答えることができないのが情《なさ》けなかった。しかもかれはけっしてわたしを容赦《ようしゃ》しはしなかった。
「ぼくはほんとうの先生に教わろう」とかれは言った。「そうしてぼく、質問を残《のこ》らず聞いて来よう」
「なぜ、きみはぼくが鉱山《こうざん》にいるうち、ほんとう
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