これまでもないことではなかったのだから。ささ、おれたちにキッスをおし」
 わたしは「先生」とガスパールおじさんにキッスをした。それから着物をぬぎ捨《す》てて、水の中にとびこんだ。
 とびこむまえにわたしは言った。
「みんなでしじゅう声を立てていてください。その声で見当をつけるから」
 坑道《こうどう》の屋根の下の空き地が、自由にからだの働《はたら》けるだけ広かろうかとわたしはあやぶんでいた。これは疑問《ぎもん》であった。少し泳いでみて、そっと行けば行かれることがわかった。ほうぼうの坑道《こうどう》の出会う場所のそう遠くないことを、わたしは知っていた。けれどわたしは用心しなければならなかった。一度道をまちがえると、それなり迷《まよ》ってしまう危険《きけん》があった。坑道の屋根やかべは道しるべにはならなかった。地べたにはレールというもっと確《たし》かな道しるべがあった。これについて行けば、たしかにはしご段を見つけることができた。しじゅうわたしは足を下へやって、鉄のレールにさわりながら、またそっと上へうき上がった。後ろには仲間《なかま》の声が聞こえるし、足の下にはレールがあるので、わたしは道
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