て忘《わす》れてはいません。自分がくらしてゆくだけのお金は取れます」
 みんなの顔がかがやいた。わたしはかれらがわたしの考えを聞いてそんなにも喜《よろこ》んでくれたのでうれしかった。長いあいだわたしたちは話をして、それからエチエネットは一人ひとりねどこへはいらせた。けれどその晩《ばん》はだれもろくろくねむる者はなかった。とりわけわたしはひと晩《ばん》ねむれなかった。
 あくる日夜が明けると、リーズはわたしを庭へ連《つ》れ出した。
「ぼくに言いたいことがあるの」とわたしはたずねた。
 かの女は何度もうなずいた。
「わたしたちが別《わか》れて行くのがいやなんでしょう。それは言うまでもない。あなたの顔でわかっている。ぼくだってまったく悲しいんだ」
 かの女は手まねをして、なにか言いたいことがほかにあるという意味を示《しめ》した。
「十五日たたないうちに、ぼくはあなたの行くはずのドルジーへ訪《たず》ねて行きますよ」
 かの女は首をふった。
「ぼくがドルジーへ行くのがいやなんですか」
 わたしたちがおたがいに了解《りょうかい》しい合うために、わたしはそのうえにいろいろ問いを重ねていった。かの女はうなずいたり、首をふったりして答えた。かの女はわたしにドルジーへ来てはもらいたいが、しかしそれより先に兄《あに》さんや姉《あね》さんのほうへ行ってもらいたい意味を、指を三方に向けてさとらせた。
「あなたはぼくがいちばん先にヴァルスへ行き、それからエナンデ、それからセン・カンテンというふうに行ってもらいたいのでしょう」
 かの女はにっこりしてうなずいた。わたしがわかったのがうれしそうであった。
「なぜさ」
 こう聞くと、かの女はくちびると手を、とりわけ目を動かして、なぜそう望《のぞ》むか、そのわけを説明《せつめい》した。それは先に姉《あね》さんや兄《あに》さんたちの所へ行ってもらえば、ドルジーへ来るときにはほうぼうの便《たよ》りを持って来てくれることができるからというのであった。
 かれらは八時にたたなければならなかった。カトリーヌおばさんはみんなを乗せる馬車を言いつけて、なにより先に刑務所《けいむしょ》へ行って、父親にさようならを言うこと、それからてんでに荷物を持って別々《べつべつ》の汽車に乗るために、別々の停車場《ていしゃじょう》に別《わか》れて行くという手順《てじゅん》を決めた。

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