いた。さあこの記念《きねん》の席上《せきじょう》でわたしたちの愛《あい》する人びとのために音楽をやろうじやないか」とかれは言った。
「おい、マチア、きみは音楽のほかに楽しみのない男だね」とわたしは笑《わら》いながら言った。「きみの音楽のおかげで雌牛《めうし》をおどろかして、ひどい目に会ったっけなあ」
マチアは歯をむき出して笑った。
ビロードで側《がわ》を張《は》ったりっぱなはこから、売ったら二フランとはふめまいと思う古ぼけたヴァイオリンをマチアは取り出した。わたしもふくろの中から、むかしのハープを取り出した。雨に洗《あら》われて、もとのぬり色ももう見分けることができなくなっていた。
「きみは好《す》きなナポリ小唄《こうた》を歌いたまえ」とマチアが言った。
「うん、この歌のおかげで、リーズは口がきけるようになったのだからなあ」
こうわたしは言って、にっこりしながら、そばに立っていた妻《つま》をふり向いた。
来賓《らいひん》はわたしたちのぐるりを取《と》り巻《ま》いた。
ふと一ぴきの犬がとび出して来た。
大好《だいす》きなカピのじいさん、この犬はもうたいへん年を取って、耳が遠くなっていたが、視力《しりょく》はまだなかなかしっかりしていた。ねていた暖《あたた》かいしとねの上から、むかしなじみのハープを見つけると、「演芸《えんげい》」が始まると思ってはね起きて来た。歯ぐきの間には下ざらを一|枚《まい》くわえていた。かれは「ご臨席《りんせき》の来賓諸君《らいひんしょくん》」の間をどうどうめぐりするつもりでいた。
かれはむかしのように、後足で立って歩こうとした。けれどもうそれだけの力がないので、まじめくさってぺったりすわったまま、前足で胸《むね》を打って、来賓にごあいさつをした。
わたしたちの歌がおしまいになると、カピはいっしょうけんめい立ち上がって、「どうどうめぐり」を始めた。みんなが下ざらにいくらかずつほうりこむと、カピはほくほくしてそれをわたしの所へ持って帰った。これこそかれがこれまで集めたいちばんの金高であった。中には金貨《きんか》と銀貨ばかり――百七十フランはいっていた。
わたしはむかししたように、かれの冷《つめ》たい鼻にキッスした。するうち、子どもの時代の困窮《こんきゅう》が思い出して、ふとある考えがうかんだ。わたしはそこで来賓《らいひん》に向かっ
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