って、たいした人だかりであった。
 わたしたちの芝居小屋《しばいごや》はさっそくできあがった。四本の木になわを結《むす》び回して、その長方形のまん中にわたしたちは陣取《じんど》ったのである。
 番組の第一は犬の演《えん》じるいろいろな芸当《げいとう》であった。わたしは犬がなにをしているかまるっきりわからなかった。わたしはもう心配で心配で自分の役を復習《ふくしゅう》することにばかり気を取られていた。わたしが記憶《きおく》していたことは、親方がふえをそばへ置《お》き、ヴァイオリンを取り上げて、犬のおどりに合わせてひいたことで、それはダンス曲であることもあれば、静《しず》かな悲しい調子の曲であることもあった。なわ張《ば》りの外に見物はぞろぞろ集まっている。わたしはこわごわ見回すと、数知れないひとみの光がわたしたちの上に集まっていた。
 一番の芸当《げいとう》が終わると、カピが歯の間にブリキのぼんをくわえて、お客さまがたの間をぐるぐる回りを始めた。見物の中で銭《ぜに》を入れない者があると、立ち止まって二本の前足をこのけちんぼうなお客のかくしに当てて、三度ほえて、それから前足でかくしを軽くたたい
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