た。それがわたしにはきみょうに思われた。でもかれはなお続《つづ》けた。
「おまえはそれをきみょうだと思うか。犬が人間に教訓《きょうくん》を授《さず》けるのはきみょうだろう。だがこれはほんとうだよ。
 すると主人が犬をしこもうと思えば、自分のことをかえりみなければならない。その飼《か》い犬《いぬ》を見れば主人の人がらもわかるものだ。悪人の飼っている犬はやはり悪ものだ。強盗《ごうとう》の犬はどろぼうをする。ばかな百姓《ひゃくしょう》が飼い犬はばか[#「ばか」に傍点]で、もののわからないものだ。親切な礼儀《れいぎ》正しい人は、やはり気質《きしつ》のいい犬を飼っている」
 わたしはあしたおおぜいの前に現《あらわ》れるということを思うと、胸《むね》がどきどきした。犬やさるはまえからもう何百ぺんとなくやりつけているのだから、かえってわたしよりえらかった。わたしがうまく役をやらなかったら、親方はなんと言うだろう。見物はなんと言うだろう。
 わたしはくよくよ思いながらうとうとねいった。そのゆめの中で、おおぜいの見物が、わたしがなんてばかだろうと言って、腹《はら》をかかえて笑《わら》うところを見た。
 
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