ける音を聞いた。
「わたしは着物もたんとないが、かわいたシャツにチョッキがある。これを着てまぐさの下にもぐっておいで。じきに暖《あたた》かになってねむられるよ」
でも老人《ろうじん》が言ったようにそうじき暖かにはならなかった。わたしは長いあいだわらのとこの上でごそごそしながら、苦しくってねむられなかった。もうこれから先はいつもこんなふうにくらすのだろうか。ざあざあ雨の降《ふ》る中を歩いて、寒さにふるえながら、物置《ものお》きの中にねて、夕食にはたった一きれの固《かた》パンを分けてもらうだけであろうか。スープもない。だれもかわいがってくれる者もない。だきしめてくれる者もない。バルブレンのおっかあももうないのだ。
わたしの心はまったく悲しかった。なみだが首を流れ落ちた。
そのときふと暖《あたた》かい息が顔の上にかかるように思った。
わたしは手を延《の》ばすと、カピのやわらかい毛が手にさわった。かれはそっと草の上を音のしないように歩いて、わたしの所へやって来たのだ。わたしのにおいを優《やさ》しくかぎ回る息が、わたしのほおにも髪《かみ》の毛《け》にもかかった。
この犬はなにをしようと
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