そこにはやせこけたえにしだ[#「えにしだ」に傍点]が、風のまにまに波のようにうねっていた。
 にげ出す――わたしはもうそんなことをしようとは思わなかった。にげていったいどこへわたしは行こう。
 この背《せい》の高い老人《ろうじん》は、ともかく親切《しんせつ》な主人であるらしい。
 わたしは一息にこんなに歩いたことはなかった。ぐるりに見るものはあれた土地と小山ばかりで、村を出たらば向こうはどんなに美しかろうと思ったほど、この世界は美しくはなかった。

 老人《ろうじん》はジョリクールを肩《かた》の上に乗せたり、背嚢《はいのう》の中に入れたりして、しじゅう規則《きそく》正しく、大またに歩いていた。三びきの犬はあとからくっついて来た。
 ときどき老人はかれらに優《やさ》しいことばをかけていた。フランス語で言うこともあったし、なんだかわからないことばで言うこともあった。
 かれも犬たちもくたびれた様子がなかった。だがわたしはつかれた。足を引きずって、この新しい主人にくっついて歩くのが精《せい》いっぱいであった。けれども休ませてくれとは言いだし得《え》なかった。
「おまえがくたびれるのは木のくつ
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