死ななければならないと思っているのだ。そこでおまえにひとつ心得《こころえ》てもらいたいことがある。世の中は戦争《せんそう》のようなもので、だれでも自分の思うようにはゆかないものだということだ」
 そうだ、老人《ろうじん》の言ったことはほんとうであった。貴《とうと》い経験《けいけん》から出た訓言《くんげん》(教訓)であった。でもその訓言よりももっと力強い一つの考えしか、わたしはそのとき持っていなかった。それは『別《わか》れのつらさ』ということであった。
 わたしはもう二度とこの世の中で、いちばん好《す》きだった人に会うことができないのだ。こう思うとわたしは息苦しいように感じた。
「まあ、わたしの言ったことばをよく考えてごらん。おまえはわたしといれば不幸《ふしあわ》せなことはないよ」と老人《ろうじん》は言った。「孤児院《こいじん》などへやられるよりはいくらましだかしれない。それで言っておくが、おまえはにげ出そうとしてもだめだよ。そんなことをすれば、あのとおりの広野原《ひろのはら》だ。カピとゼルビノがすぐとおまえをつかまえるから」
 こう言ってかれは目の前のあれた高原《こうげん》を指さした。
前へ 次へ
全320ページ中65ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
マロ エクトール・アンリ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング