上《ちょうじょう》で、かれはふたたびわたしの手首をにぎった。その山を南へ下り始めて十五分も行ったころ、かれは手をはなした。
「まああとからぽつぽつおいで。にげることはむだだよ。カピとゼルビノがついているからな」
 わたしたちはしばらくだまって歩いていた。
 わたしはふとため息を一つした。
「わしにはおまえの心持ちはわかっているよ」と老人《ろうじん》は言った、「泣《な》きたいだけお泣き。だがまあ、これがおまえのためにはいいことだということを考えるようにしてごらん。あの人たちはおまえのふた親ではないのだ、おっかあはおまえに優《やさ》しくはしてくれたろう。それでおまえも好《す》いていたから、それでそんなに悲しく思うのだろう。けれどもあの人は、ご亭主《ていしゅ》がおまえをうちに置《お》きたくないと言えば、それを止めることはできなかったのだ。それにあの男だって、なにもそんなに悪い男というのでもないかもしれない。あの男はからだを悪くして、もうほかの仕事ができなくなっている。かたわのからだでは食べてゆくだけに骨《ほね》が折《お》れるのだ。そのうえおまえを養《やしな》っていては、自分たちが飢《う》えて
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