けれどもかれはわたしの手首をおさえて、土手を下りて往来《おうらい》へ出た。
「さあ、だいぶ休んだから、もう出かけるのだ」と、かれは言った。
 わたしはぬけ出そうともがいたけれども、かれはしっかりわたしをおさえていた。
「さあカピ、ゼルビノ」と、かれは犬のほうを見ながら言った。
 二ひきの犬がぴったりわたしにくっついた。カピは後ろに、ゼルビノは前に。
 二足《ふたあし》三足《みあし》行くと、わたしはふり向いた。
 わたしたちはもう坂の曲がり角を通りこした。もう谷も見えなければ家も見えなくなった。ただ遠いかなたに遠山《とおやま》がうすく青くかすんでいた。果《は》てしもない空の中にわたしの目はあてどなく迷《まよ》うのであった。


     とちゅう

 四十フラン出して子どもを買ったからといって、その人は鬼《おに》でもなければ、その子どもの肉を食べようとするのでもなかった。ヴィタリス老人《ろうじん》はわたしを食べようという欲《よく》もなかったし、子どもを買ったが、その人は悪人ではなかった。
 わたしはまもなくそれがわかった。
 ちょうどロアール川とドルドーニュ川と、二つの谷を分かった山の頂
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